連邦政府の厚生長官になったキワモノ弁護士が中心となる「米国を再び健康にする委員会」を設立するという大統領令が出た。キワモノ厚生長官が委員長となり、「米国で急激に悪化する不健康さについての調査をし、ことにまず小児の慢性疾患に焦点を当て、その根底にある原因を明らかにする(大統領官邸の公式ウェブサイトのこの委員会に関する概要報告書より適当に邦訳)」というものらしい。以下その骨幹を適当に訳してみる。
適当訳ここから、カッコ内は注釈あるいは筆者による適当なコメントですーーー
・今後100日以内に、小児の慢性疾患に関し現在までに判明していることおよびまだ判明していないことについて評価しまとめる。これには外国との比較も含む
・今後180日以内に評価で判明したことに基づき、米国市民の子女の健康増進についての戦略をまとめる
・慢性疾患に立ち向かうための調査は(巨大製薬会社のような邪悪な、と言いたいらしい)第三者による調査結果などではなく連邦政府によって資金供給される研究を優先して採用する
・米国市民が有意義な生活への変更や疾患予防のための医療制度や加療方法の選択を拡大する
(訳者注:次に、米国内で拡がる慢性疾患について「経済や国家の安全保障に深刻に影響する米国民の慢性疾患について、その加療よりも防止に焦点を当てる」とし、以下のようなデータを提示している。ちなみにソースなし。たぶんCDC、米国疾病管理予防センターの公式サイト)
・米国において、10人に6人の成人が少なくとも一つの慢性疾患をもち、さらに10人に4人は二つ以上の慢性疾患をもつ。
・新型コロナ感染によるパンデミック以前、諸外国の平均寿命が82.6歳であるのに対し、米国の平均寿命は78.8歳であった。これは実に米国市民合計で12億5千年短いということになる
・1990年から2021年の間に米国での悪性腫瘍は88%の増加を見ている。年齢ごとの悪性腫瘍の数は204か国ので2位にほぼダブルスコアの差をつけてのトップである
欧州・アジア・アフリカのほとんどの国と比べて米国の喘息の頻度は非常に高い
・小児における慢性疾患も増えている。小児という期間は通常人生の中で最も健康な時期であるにもかかわらず、40.7%にあたる300万人の小児に何らかの慢性疾患をもつ。これらはアレルギー、喘息、自己免疫疾患などである。
・36人にひとりの小児に自閉症が見られ、1万人に対し1~4人であった1980年代から急激に増加している
・10代の若者の18%が脂肪肝で苦しんでおり(別に苦しんではいない。脂肪肝そのものに症状はない)、また4割以上が「太り気味」あるいは「肥満」であり、これまでの世代ではなかったことである
・小児がんは現在でもまれな病気であるが、1975年から毎年0.8%ずつ増加しており、過去45年で4割増加している
・薬漬けが特に小児で問題になってきている。340万人の小児がADD/ADHDの薬剤を内服しており、診断数も増加している、
・慢性疾患が軍隊制度や経済に大きな影響を与えている。77%の若者が主に肥満や薬物使用、身体的・精神的疾患により入隊基準を満たしていない。
・米国における4.5兆ドルの医療費の9割が慢性疾患や精神疾患の加療に充てられている
・米国は他の先進国と比べ一人当たりほぼ倍の医療費がかかっている
・米国市民は医療制度に対する信頼を失っており、健康危機の原因、そしてその改善について誠実な回答を得ているかについては疑わしく感じている。米国の医療制度を信頼する米国市民は3人にひとりとなっており、これは記録的な低さである
(訳者注:次にこの報告書では対策として、この偉大な不動産屋が「何が慢性疾患の増加の原因か、そして未成年のひとりひとりが安全で健康な小児期を送るための勧告を委員会にまとめさせるとし、次のように付け加えている。)
・不動産屋の前任期では医療費を削減し、治療方法の選択肢を増やし、米国市民がよりよいケアを受けられるようにした
・終末期の患者が治療が受けるためのRight to Tryという法律を制定した(これは政府未認定の薬剤などを患者の意思で受けられるようにしたもの。当たり前だけど何が起きても自己責任)
・鎌形赤血球症の患者が最近開発が進んでいる遺伝子治療が受けられるように計らった(これはもともとバイデン政権による大統領令「鎌形赤血球症及びその他の遺伝子疾患に対する研究・調査・予防・治療に関する2023年法」に基づくアクセスモデルに過ぎないので、私が知る限り不動産屋は特に何もしていない)
・薬物使用についての非常事態宣言を発令し、「患者と地域社会への支援に関する法律」を成立させ、国家未曽有の薬物乱用危機について広く呼び掛けた(発令したのは2018年。でも金を出し渋ったのか大したことができずその後も薬物乱用は悪化の一途をたどることになる)
・医療サービスが届かない地域に対するオンライン受診の可能なエリアを拡大した
適当訳ここまでーーー
素晴らしい大統領令だけど、具体策がまるでないことはさておいて、何から何までなんとなくおかしい。米国市民の平均寿命が短い理由には肥満や医療制度上の格差などいろいろあるだろうが、スタートラインである周産期死亡率、つまり外界でも生きられる胎児(22週以降)と新生児の死亡率は先進国にしては異例の高さである。米国に生を受けた時点で生き残る確率が他の先進国に比べて低い。人種間の格差が大きいが、被害者意識丸出しの白人が支持する白人だらけの現政権の面々を見ていると、それが改善されることはないだろうな、と思う。次に小児の4割に何らかの慢性疾患がとあり、ここでは小児の慢性疾患として喘息やアレルギーが挙げられているが、米国での小児喘息の罹患率、食物アレルギーの有病率は他の先進国と比べて有意に高いわけではない(これについては日本の厚労省の公式サイトとCDC、米国疾病管理予防センターの公式サイトを参照しています)。高いのは肥満率である。米国ではざっくり言えば「肥満」は状態を表すのみでなく実際に治療対象となる診断名として認められている。だから肥満の小児はそれだけで「慢性疾患」があるということになる。成人の肥満率(BMI30以上)は4割を超える。若いうちは何とかなるが、40代に入る頃からは肥満から慢性疾患が起こる。関節がやられ(慢性疼痛)、心臓がやられ(高血圧・心筋梗塞・脳血管障害)、糖代謝が追い付かなくなる(糖尿病)。貧困層は食育を受ける機会もなく、そのために肥満とそこからくる慢性疾患にかかりやすくなる。肉体労働の割合が多い人種ではこれにより就労が困難になり、雇用ベースの医療サービスを受けることができなくなる。セーフティーネットであるメディケア・メディケイド・オバマケアは受けられる医療サービスの制限が大きい。
肥満の度合いを下げ、たとえばBMIを30未満に抑えることができれば状況は変わると思う。政府の介入として素人考えで浮かぶのは、米国市民が教育を受ける機会を拡大し教養を深めることができるようにする、雇用援助でファストフードのような超加工食品でない、政府が勧める健康的な食品を摂取できるようにする、そして医療保険を拡充し、安価で良質な医療サービスのアクセスを容易にする、薬物依存者にはそのベースにある問題に焦点を当て、薬物から切り離すのみではない全人的なアプローチをする。企業に対しては健康被害が考えられる食品添加物の使用をやめさせる。また健康に被害が及ぶとされる化学物質について調査し、それに基づいて企業に行政指導を行う…とか。
でも市民の健康を目指して掘り下げるほど共和党が目指す小さな政府とは逆方向に走ることになる。基本的に共和党はその内容に関わらず政府からの干渉や課税を極力避け、その代わりその結果は自己責任、というのが建国以来の理念のはずだ。だからこそあの不動産屋は新型コロナ感染症についてもマスクの着用を公衆衛生ではなく政治的な話にすり替え、人々はそれに従ってマスクの着用を拒否し、着けている人におまえらは民主党のイヌだと怒鳴りつけ、残念ながら米国では百万人以上が亡くなった(日本は7万5千人弱)。米国市民、特に共和党支持者にとっては、個人の自由が何よりも優先されるものらしい。薬物乱用で息が止まろうが、肥満で糖尿になろうが関節がいかれようが、それは私の自由だ、私は食べたいものを食べやりたいことをし、言いたいことを言う。何も違法なことはしていないのだから、他人、特に政府に干渉される謂れはない、疾患防止策に税金を使うなんて、ここはいつから社会主義国家になったのか、そんな金があるならグリーンランドを買え。
トンデモ厚生長官はもともと民主党の政治家一家の出身だから、そういう公共の福祉的なことが念頭にあるのかもしれない。日本出身のわたしにとってはこの委員会の存在も活動も悪いことではないし、ここで言われていることが実現できれば間違いなく平均寿命は延びると思う。ただ、この国で、さらにこの党でこれらの実現は難しいと思う。健康は金がかかるものだから。
最近のコメント