女の友情
母は父が亡くなってからというもの活動的になり、ずっと疎遠だった学生時代の友人を誘って旅行に行ってみたり、家に呼んでみたりと楽しくやっている。この週末も、バス旅行で仲良くなったという隣町のご夫婦が来て庭で茶なんかしている。
そこへ王子から電話がかかってきたのでそんな話をしたら、いいなあ、うちのおふくろは友達を作ろうとしないんだ、と言う。
王子のお母さんはまっとうできちんとした人である。彼女がだれとも友達づきあいをしないのにはそれなりの理由があるだろうし、女同士の友情というのは難しいもんだよ、何年付き合ったかに関係なくあっという間に壊れるし、と言ったら、そんなはずはないと。
それで、こんなケースを挙げてみた。
高校で仲がよかった4人のグループで卒業後も機会を設けて会っており、5年ほど前のその日もそうだった。わたし以外はみな結婚しており、そのうちの1人が第一子を妊娠していてこの友人以外は複数の子供がいた。ひとりはご主人を連れてきていた。
友人の1人が、かいぽんはそろそろ結婚の話なんかないの、と聞いたので、うん、なさそうだね、と答えた。そしてこの妊娠中の友人がわたしに「なんで結婚しないの」と聞いた。わたしは、そのしばらく前に長いこと付き合っていた彼と別れたことを話し、そういう相手がいないからしばらくはないだろうね、と言った。みなその後はほかの話に切り替えた…
と思ったら、「まだ結婚しないの、子供とかほしくないの」とこの友人がさらに聞いた。
驚いたことに、意地悪で言っているのではなかった。いつもの無邪気な顔で言ったのだ。結婚とは、妊娠とはこんなにすばらしいもので、これを経て初めて女として一人前になるのに、と顔にゴシック体ででっかく書いてある。
怒鳴り散らしてやりたいが正義は相手にある。でも腹が立って「ふうん、”まだ”…ねえ」と、自分でもやりすぎだろうというくらいいやなトーンで言ったが、もちろん通じなかった。ほかの友人のご主人の顔色だけがさあっと変わったのに気が付いた。後で聞いたらこのご主人は姉妹に囲まれて育ったのだそうだ。
「看護婦さんしててお金稼いでるかも知れないけど、一人で何に使うの」
おお、そこまで言うか。
地方のそこそこの高校を卒業して短大を出て、家の手伝いをして28で見合い結婚をした彼女はそういえば以前にも「わたしはかいぽんみたいに外で働くなんて無理、なんかすさんじゃいそう」と言ってたなあ。悪かったなすさんでて。
「洋服とかかなあ…」
「えー、でも今日着てる服高くなさそうだよ?」
内心怒りまくるわたしを見る友人のご主人の顔が蒼いのを通り越して白くなっていたのでもうそこからは黙っていたが、その日着ていたのはセオリーのシャツにマックスマーラのカーディガン、ル・ヴェルソーのジャケットにジーンズで計25万くらい、バッグや靴なんかの付属品も入れると35越えだった。幼いころ実家が貧しく洋服はいつも従姉妹のお下がりだったから、自分で稼ぐようになってからは洋服には好きに金をかけていた。ロゴ入りコテコテのブランドは好きではないから、好きな人でないとわからないのは理解できるんだが、いやしかし。結局それ以来彼女との連絡は絶っている。
この話を聞いた王子の反応は
「なんで」
だった。なんで連絡を絶ったの?え、その子がまだ結婚しないのって言ったから?価値観の違いって、別に自分の嫌いな政党に投票するから友達づきあいをやめるとか、そんなのないでしょ。
そうか、男性はそう思うのか…そういえばこの話を男の人にしたことはなかったな。同年代の独身女性看護師に話すとものすごい同意が得られるキラートピックなんだが。
わたしの両親はわたしに対して結婚をしろとか早く子供を産めといったことを言ったことはこれまで一度もなく、兼業主婦をしながら身体の悪い父の看護をした母に至っては「したいなら止めないけど、しないとならないものではない」と言ったこともある。とはいえ、一歩外に出てみればやはりプレッシャーを感じることは多い。30代になったばかりのころは、結婚するのは当たり前、女性なら子供がほしいはずという社会通念とやらから「わたしは一生誰からも選ばれないのか、女として劣っているのか」と考えて眠れないこともあった(その後居直ったけど)。同年代の独身女性と話をしていると、「いっそのこと適当に手を打って結婚して離婚すればバツイチになってまだ肩身が狭くない」という話が出ることもある。んなことあるかいなと思っていたら先日読んだ「下流社会」にまさに同じことが書いてあった(30代以降の女性では未婚独身よりは離婚歴がある独身の方が自己評価・他者からの評価がともに高い)。
社会で仕事をしていること、手に職があることで人間として独立していると普段思っていても、やはり劣等感は根強くあって、だから「まだ結婚しないの、子供はどうするの」と言われると脊髄反射で腹が立つ。だいたい自分がいいと思うから相手もやれって、カルトの布教じゃあるまいし。
そうか、米国でも60年代にはそういう女性同士の問題があったから、そういうものかもしれないね、ただ、僕が何か気に入らないことを言ったからもう付き合えないということになるというならそれは困る、と言う王子に、わかった、なんか言われて腹が立ったら脊髄反射でキレるけど、落ち着いたら話し合う、ということで合意した。
しかしあれか、あれだけ売れた「負け犬の遠吠え」も、男性にはわからないのか。まあそうなのかもね。発売した日に買って、あまりの当てはまりっぷりに膝を打ちすぎて半月板が割れるかと思うくらいだったんだけど。
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コメント
すごーくよーくわかるのは私が独身女性だからでしょうか。
まぁ、私は自分の今までの生き方に後悔はしていません。過去に戻りたいとも思っていないので別に何言われてもいいんですけどねぇ。
でも、結婚や出産について言われるとなんで腹立つんでしょうね。やっぱり内心気にしてるからなんでしょうね。
20代終わってちょっと焦ってた気持ちも落ち着いた感じがあったんですが、周りは「30過ぎたんだから焦りなさい」って感じみたいですね。
まだまだ辛いですねぇ。
投稿: 苫子 | 2008年6月23日 (月) 19時44分