披露宴はキャンセルになりました。
アメリカでとっとと王子とその近しい人たちとで簡単に挙式を上げたのは去年7月のこと。
急なことだったし、実際やったことはワンピースを着て市役所で誓いの言葉を言っただけのことだったから家族を呼んだりはしなかったのだが、帰国後母は大変驚いたらしい。「わたしのきょうだいを呼んで披露宴はするんでしょうね」と母は言った。
その驚いた顔にわたしが驚いた。
大学生の頃「この春休みは免許を取るから帰らないよ~」と言ってひと月アメリカに行っちまったこともあるし、看護師になるのを母に反対されて勝手に受験して看護学校に入学したこともあるし、父が亡くなった直後にもかかわらず予定通り都内の病院にとっとと就職したこともあった。結婚手続きを当人同士でしちまいました程度のことでこれまでわたしと付き合ってきた母が驚くとか感情的になると思っていなかった。
とはいえ、母がそれを残念だと思ったのであれば申し訳ないことだし、それに永住権がおりれば日本を離れることになるのだから母の願いくらいはかなえておきたいと思い、披露宴を計画することにした。
そしてここで王子が障壁として登場する。
もともと王子は言動がものすごく行き当たりばったりなところがある。
突然「小型飛行機の免許を取ろうと思うんだよね」と言ったりする。
それを聞いたわたしはいろいろと考える。小型飛行機の免許というと、これくらいの費用と期間がかかって、飛行機を実際に購入するとこれくらいかかって、近くの空港にガレージを借りるとひと月これくらい維持費がかかるだろうか、保険なんかはどうなるのかなあ。もったいないなあ。でも趣味を持つのは悪いことではないのかもしれない…
そしてしばらくして「小型飛行機のことだけど…」と切り出すと本人は覚えていない。何のこと?と言われて説明すると「ああ、そんなこと言ったっけ?」なんて言ったりする。
あるときは「XX月に日本に遊びに行こうと思うんだ、休みが取れそうだよ」と言われて動く。こちらのスケジュールを確認し、どれくらい休みが取れそうか上司に相談し、どこに王子を泊めようか、どれくらい一緒にいられそうか、どこなら一緒に遊べそうか、同僚におすすめの場所を聞き、地元には行った方がいいか、どれくらい予算が組めるか…
そしてある日その計画は「頼まれて仕事を請けちゃった」という理由であっさり消えたりする。このときはさすがに嫌気が差してしばらく連絡を断った。
披露宴を計画するに当たって、誰を呼ぶのか、どこから来る人が多いか、またそれを踏まえてどこでするのがよいか、予算や身の丈からどの程度の規模でするのがよいかを考える。王子に話をし、誰を呼びたいかを訪ねて住所をもらってこちらから結婚報告はがきで出席の打診をし、平行して式場の下見をし、見積もりを出してもらい、プレ司法試験を控えた王子と電話で連絡をとりながら日程の打ち合わせをし、母のきょうだいの予定を確認し仮予約を入れた。その日取りに物言いがついてキャンセルしたのは翌日のことだ。理由は「先過ぎる」だった。
mixiのアメリカ配偶者ビザの情報交換から計算すると、わたしたちのケースでのビザ発給は早くて7月過ぎ、遅ければ秋になると予想できていてそれも考えての設定だったのだけれど、とにかく早く来てほしい、急げばすぐに発給してもらえると思い込んでいる王子には納得できなかったらしい。また、出席者のほとんどが英語を話さないために高砂でさびしい思いをするという心配もあったようだった。それは当初からわかっていたからプランナーさんに相談してあったことだったけれど、わたしのすることを王子は基本的に信頼していないということだ。そこまで冷静に考えていればのことだけど。
わたしだって全国に散らばる親戚友人その他に都合をつけさせたうえで呼びつけて金を払わせるようなまねはしたくない。そんなことに意味を見出せない。でもしないとならないことはやらないとならない。
その前提があって、目的を達成するためにどこまで調整ができるか、とにかくできるところまで努力しようと動いていたので、正直「言いたいことだけ言って人の努力を無駄にした上にわたしと母の顔を潰しやがって、おまえなんか地獄に堕ちろ」というのが正直な気持ち。
頭に来たからmixiに投稿された各個のビザ収得までのタイムラインをまとめたものをワードで大量に送りつけ、「あなたが思っているほどビザは簡単におりない。秋にずれ込むこともこちらは覚悟している。また日本では四季の関係で結婚披露宴の予約を1年前から入れるということはセレブでなくてもすることで、そのために招待客に早くから打診して数ヶ月前に招待状を出す。来週やるけど来れる?なんてのは合コンか職場の飲み会ぐらいだ。そんな日本の結婚文化の理解が難しいこと、いろんなことが納得行かないことはこちらも理解しているし、申し訳ないと思っている。そのうえで協力してほしい。一人娘が勝手に婚姻手続きをした上に、今度は外国に渡ってしまう母の気持ちを察してほしい」と話をした。
王子は黙らせた。きもののお稽古が4月いっぱいで一段落するからGWは連休を取って泊り込みでブライダルフェアのはしごだ!と定期購読中の結婚情報誌で場所と日程を確認し、連休を取った。もう今年の日取りはとれないだろう。披露宴のためにふたりで一時帰国するしかないが、それも予算に組めばいい。来年の春か秋の土曜日の昼で、押さえられるところであればまず予約を入れてしまおう。有名な観光地だから招待状に周辺の観光地図を入れて、披露宴後は遊んで帰ってもらおう。親戚筋はしかたがないが、友人には「車代や宿泊費は出さない代わりにお祝儀はいらない。引き出物もないから気にしないでほしい」と話してある。
そして母からメールが来た。「あんたの従兄弟の結婚式できょうだいと会ったから話をしたら、別にご主人がしたくないというなら無理に披露宴をすることはないと言うから、いいんじゃないかしら」
何その展開。
てかお母さま、あなたはなぜ披露宴を挙げさせたいと思ったの。きょうだいに見栄を張りたいとか、一人娘の晴れ姿が見たいとか、そんな理由じゃなかったの。てかあんたね、質問されたきょうだいが「いや、披露宴は大事だよ~しなきゃだめだよ~」なんて言うわけがない。せんでええと言うだろうよ、向こうさんだって面倒だし。
王子とはこの1週間連絡をとっていない。披露宴が取りやめになったことも話していない。なんというか無性に腹が立ってひどいことを言いそうなので、いや言ってもいいけど言ってもどうにもならないので、気持ちがおさまるまでひとりでいることにする。とりやめなの、よかったよかった~なんて言われた日にはそろえた永住権の申請書類に火をつけたくなると思う。
こういうとき、仕事があるの気が紛れて助かる。
それにしてもどいつもこいつも。
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