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下膳

新人が来てから今月で4ヶ月目。2ヵ年計画で成長してもらおうという上層部の指示通り、こちらは新人に根拠を尋ねることはいまだにほぼできず、ひたすら生ぬるく接している。

しばらく前の勤務で新人から申し送りをもらった。シフト開始90分前には病棟に着いて担当する患者の情報収集はカルテから行っているから、新人が申し送る程度のことはあらかじめ把握している。正直申し送りはわたしのためではなく、新人がいかに申し送りに慣れるかという練習のため、あるいはどこがまずいかこちらが把握するためのものになっている。

「でぇー、この患者さんが寝る前の薬を飲んでくんなくてぇー、結局飲んでないんすよー。でもさっき行ったら寝てたんでぇ、もし起きちゃったら飲ませればいんじゃないかって思うんで、おねあいしあーす」

なあお嬢さん、ハタチをいくつ過ぎてるかは知らないし興味もないが、あんたの3倍は生きている人を相手に「飲んでくんない」はないだろうよ。飲みたくない理由が何かをきちんと聞いてそこからどうするかを考えるのがこの商売でしょうが。てか、それって何語?日本語によく似てるねえー。

…と言いたいが、とりあえず黙っておく。ダメ出ししちゃいけないんだってさ。新人が泣きでもしたらあとで呼び出しを食らいます。

「じゃー次の患者さんんー」

「申し送りでは、ひとりひとり翌日の点滴の確認をする決まりよね。明日のこの方の点滴はどうなの」

「あー」

情報収集の時点で、医師が翌日分の輸液の指示を出していないことはわかっている。それが翌日の食事量を見てから指示を出したいと思っていることもわかっている。それが言えれば大したもんだが。

「明日の点滴…ないすね」

「じゃあ明日は点滴はないの?」

「っスかねー」(そうですかねーの意)

スカねーじゃねえ。おまえがスカだ!とこの新人の指導係に話を入れてみる。「そうなんですよ、口調がすごくぞんんざいで…でも叱っちゃいけないって上が言うし、どうしていいのかよくわからないんです」だそうだ。


で、今日。

この新人がどうやら男性患者さんをハデに怒らせたらしい。彼女は遅番業務だったから深夜勤務のわたしが出勤してきたときには既に帰宅していた。この患者さんはやけに今日は眠れずに起きているんだなあと思っていたが、朝になって呼び止められた。

話はゆうべ食事を摂るのが遅くなってほとんど手をつけられずに下膳されてしまい、そのときお盆に載せていた自分の大事なお箸が一緒に下げられてしまったということだった。

これについてはおそらく栄養部に連絡をすればわかるから、連絡してみますと伝えたのだがなぜか「下膳した看護婦さんのお名前を知りたい。お盆に載っていたか確認したいので」と強く言う。実際のところだれが下膳をしたかわたしにはわからないので、その件も確認してからお伝えしますと言って下がった。

栄養科に問い合わせると、この人が描写した箸はなかったという。とりあえずもう一度見てみますと言ってくれた。しかしまたなんで看護師の名前なんか知りたいのか、それとも箸のほかに言いたいことがあったのか。そんなわけで下膳したのがだれだったのかを確認したあと、話を聞きにこの患者さんの部屋に行ってみた。下膳したのはかの新人。

しばらくお箸の話をし、朝食の準備が終了したところで栄養科に問い合わせますのでいましばらくお待ちくださいねと伝えたところ、「お箸はわたしが間違って置いたままにしてしまったから、わたしもいけないんです」と言う。

ふうん、と思って聞いていると、だんだん口調がヒートアップしてくる。どうやらこの新人がかなり強引に下膳しちまったらしい。「もう下膳する時間なんでー、食べちゃってくださいー」「あと5分で終わりますから」「じゃあここで待ってます」というやり取りがあったと。

どうやら箸がない云々は大したことではなくて、そんな失礼な対応をした看護師が許せず思い出し笑いならぬ思い出し怒りで前夜眠れず、それをわかってほしくて箸の話を持ち出したらしい。まあたしかに入院の唯一の楽しみは食事。下膳の時刻になったからといって「ここで待ってます」はない。しかもあの口調じゃねえ…

新人は遅番の後オフ。携帯電話に連絡するがひたすら留守番電話で話ができない。

上司が後ろで「オフだからー、職場からの電話にはー、出ないッスー、じゃないの」と呆れている。


じゃあもう来んでええ!と思う投げやりな朝。処理が死ぬほど大変です。

(詳細はすべて変えています>

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