ジムで走っていたら、ブリトニー・スピアーズのアイドル時代のビデオが流れた。10代半ばの頃か、肌はつるつる、日に焼けた身体はめりはりがあり、瞳はきらきらで激しくかわいい。それが今では30にもならないのにフォトショップ加工なしでは雑誌の表紙も飾れない劣化ぶりである。
とはいえこれはブリトニーに限ったことではない。多くの白人女性は10代では輝くように美しいのだ。高校卒業くらいまでは何を食ってもウエストのくびれが消えず服がよく似合う。肌もきれいで化粧栄えがして美しい。アメリカでは今でも日焼けはステータスシンボルみたいなところがあるのだが、実際白人は日焼けがよく似合う。おととしの夏、日焼けを嫌うわたしに見せようと王子は努めて日に当たって日焼けしたのだが、これが確かにものすごく似合っていた。いやでも肌には悪いと思うんだけどどうなの。
さて、そんな我が世の春を謳歌する若い皆さんは、どうしたわけか二十歳を過ぎた頃から劣化が始まり、肌のきめが失われて太り始める。でも幼少期からの好きなものを好きなだけ食べる食習慣は変えられず体重は増えていく。アジア人は肌のきめが細かく比較的やせているので、たいがい年よりも若く見える。とはいえ、アジア人から言わせればアジア人以外が年よりも老けて見えるだけだ。
ファミレスに行くと、トドのように太った両親に連れられてほっそりしたかわいらしい10代が食事をしているというデジャヴーな風景をよく見かける。そのたびに思い出すのがコメディ映画「The Heartbreak Kid(2007年、邦題・ライラにお手上げ)」でベン・スティラーが結婚するシーン。ほっそりした美しい新婦が「これ、ママが結婚式で着たドレスなの」と言うのだが、新婦の横に立つ母親は首もないほど太っている…というもの。
さて、うちの外科が扱うなかには肥満外科が含まれている。文字通り外科的に「病的肥満(morbid obesity)」を治療する。肥満が病気として診断され、治療の対象になっているのである。BMI40やら50といった過度の肥満はDMや冠動脈疾患を引き起こして医療費がかさんで仕方がないので、肥満治療は保険適応になることが多い。こっちに来てからあまりに肥満の皆さんを普通に見すぎて、BMI30台くらいだと「多少ぽっちゃり」くらいにしか思わなくなった。BMI35で身長160cmなら体重90kgくらい。だいぶ基準が狂っている。
さて、外科的治療では胃の周りにベルトを締める「ラップバンド術」や、胃を縫い縮めて容量を小さくする「ルーワイ胃バイパス術」が広く行われているのだが、もちろんこれをしただけでやせるわけではなく、食習慣を含めたライフスタイルの変容が求められる。
しばらく前にラップバンド術を受けた女性から「体重が減らない」とクレームが入り、医師は「バンドが外れてしまったのか」と急遽胃内視鏡を実施して確認した。結果は「きれいにかかっている」。要するにバンドで容量は小さくなったが、高カロリーのものを際限なく食べて運動もしていないというところらしい。医者も大変だね。
先週のある日、肥満に対する胃バイパス術に臨んだ女性は術中に大量出血した。ところがどこが出血源なのかわからず、MAPやらFFPやらの輸血を数十単位ずつがんがん突っ込むのだが出血が止まらない。脾臓を傷つけたか、それとも腎動脈の辺りを切ったかと血管外科医を呼び出し、血の海の中、必死で脂肪をかき分けて出血源を突き止めて止血、手術後はICUに直行した。肥満は恐ろしい。わたしはこの後しばらく行っていなかったジムにまた通い始めた。
日本で食べていたようなものがなかなか手に入らないので、わたしもこちらに来てからは体重が増え気味、それでもこちらの基準から言えばやせているのだが、日本人はどうやら太ってはいけないらしい。
世界糖尿病連合とかいう団体が出した数字では、アメリカの糖尿病患者数は2680万人。人口が3億をちょっと超えたくらいなので9%弱。一方日本は8%強。BMI30以上の肥満者の割合はアメリカが34%、日本が3.4%(OECD調べ)で10倍なのに糖尿病有病率がそれほど変わらないので、日本人はBMIが低くても糖尿病になりやすいということになる。一説にはBMIが23を超えるとリスクががっつり上がるとか。この国でBMI23なんて普通にうらやましがられるレベルなんだけどね…
ちなみに王子は幼少の頃から食った分だけ太る体質だったらしく、それを熟知しているので今でも軽くヤバくなると食事に気をつけて、いまんとこそれなりを保っている。反対に姉ちゃんは何を食っても太らない幼少時代を送り、20代で首が消失する事態に陥って目を覚まし、今は毎日のジョギングで普通体型をキープ。弟は今も昔もやせの大食い。いいなあ…
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