ダイソン犬

我が家にやって来た犬オースティン=メイは、ものすごく食べる犬だった。それほど太っているわけではないのだが、餌はやっただけ残らず食べる。食べるというよりも吸引しているといった方がしっくりくるレベル。

もう一匹のミニチュアダックスはもともとあまり食べることに興味がない。わたしが食事を作るとき、肉の脂身の多い部分や筋の部分、臓物があれば切り分けておき、味をつけずに焼いて犬に出すので、それに比べるとあんまりおいしくないのだろう、ドライフードはよほど空腹にならないと口をつけない。だから、オースティン＝メイが来るまでは、ドライフードを入れたボウルを常に出してあって、食べたいときに食べられるようにして食べた量をチェックする程度だった。

ひとつの器に二匹分の餌を入れると床に置いた瞬間オースティン＝メイががっついて完食するので、器をふたつ用意して、１日２回それぞれの犬に出すようにした。片方の器を空にしたオースティン=メイがもう一方にも手を出すので、ミニチュアダックスがとりあえず食べ終わるまでは餌を奪われないように付き添う。ドライフードをこんなにがっついて食う犬は初めて見た。

ある日の夕方、わたしと王子はそうと知らずに重複して餌を出した。いつもどおり付き添っていたら王子が来て、ああ、餌はさっきあげたんだよと言う。それでもいつもと変わらないオースティン=メイの吸引力はすでにダイソンレベル。目を離した隙にミニチュアダックスの分も完食して、めでたく三匹分のドライフードを食べた。


変化はその二日後、うちに来てから４週間後に起きた。その日、餌を出してもオースティン=メイは食べなくなった。ふんふんと匂いをかいで、ベッドに戻って寝てしまった。病気だろうか、それともこのドライフードに飽きたのか。先月の健康診断は問題なかったし寄生虫もいない。水は飲んでいるので、とりあえずもう１日様子を見て、よくなければ獣医に連れて行くことにした。

翌朝、餌は半分ほど食べてあった。餌を注ぎ足しておくと、夕方には餌はまた減っていた。違う種類のドライフードを混ぜたが、特に変化は見られない。最初はおそるおそる口をつけた牛の筋は今ではよく食べるし、歯磨き代わりの硬いおやつもよく食べるし、よく走る。

それから半月、オースティン=メイに変化はない。もしかするとうちに来るまでこの犬は、今あるこの餌をあるだけ食べておかないと次にいつ食べられるかわからないという生活をしてきたのかもしれない。１日２回餌が出てきて、おやつが出てきて、ときどき鶏のレバーやら牛筋やらも出てきて、ドライフード程度にがっつかなくてもいい、そう気がついたのかもしれない。あれだけ食べるのに太っていないのはなんでだろうと思っていたけれど、そういうことなのかもしれない。推測に過ぎないけれど、様子を見ているとそういうこともあるのかもしれないと思う。

犬はある程度空腹のほうが番犬としてより機能するという考え方もあるし、野良犬ではなかったオースティン=メイが格段不幸だったとも思わない。でも若干不憫ではある。

二匹の犬はぴったりとくっついて眠っていて、器の餌はふたつとも半分残っている。もうしばらく様子を見て、いいようなら器をひとつに戻せるだろうか。今日のおかずはハンバーグなので、犬におすそ分けは行かない予定。残念。