米国の出生率
今日見かけた記事。
https://news.yahoo.co.jp/articles/d8e944a2716107998293e601b24e691820861810
日本では少子化が進んでいるが米国ではそうでもない、という記事。米国だって少子化が進んでいないとは言えないものの、それで焦る必要はないから比較対象にはならないのだが。
ところで、米国ではそんなに子供が生まれているのかというと、実際かなり生まれている。米国政府が発表している2021年の総出産数は3664292件、一方厚生労働省によると日本は811604件である。この年の米国の人口が3億3290万人、日本が1億2550万人なので、人口比でざっくり計算しても日本の倍以上生まれている。
ただし、特殊出生率を見てみると、米国が1.67、日本が1.34(ともに2020年)と、別に米国に住む女性が残らず倍以上産んでいるわけではない。要するに、産む女性は複数回出産するが産まない女性は一回産むかどうかでその差が激しいということだ。
人種や宗教、あるいは教育を受けているかどうかでも出産数に差が出る。ヒスパニック系米国人の多くが避妊や堕胎を教義で禁じるカトリック教徒で、ほかの人種よりも特殊出生率が高い。また、高校までが義務教育である米国で高校卒業しなかった女性の平均出産数が2.7であるのに対し、学士号を持つ女性の平均出産数は1.87である。そのほか高校卒業で2.25、准学士号で2.13、修士号以上で1.8と、高学歴になるほど出産数が低い。米国で子供を持つアジア系の母親(25歳以上)の6割超が学位号以上を持っていることを見ると、その出産数の低さも納得がいく。「idiocracy(直訳すると「低能統治」)」というブラックコメディー映画があるのだが、この設定は現代の男女が500年冬眠して目覚めてみたら米国市民の知能指数が極端に下がっていたというもの。500年の間に頭がよい男女が子供を持つのを遅らせたり子供の数を減らす一方でそうでない男女が無計画に子供を持ってネズミ算的に増えて前者を駆逐した結果、米国を統治する者も低知能で国そのものが無計画になったと
いうのがその背景。
https://www.cdc.gov/nchs/images/databriefs/301-350/db332_fig02.png
リンク元:CDC(米国疾病予防管理センター)25歳以上の母親の最終学歴の割合
さて、わたしが米国に移住して就労して14年ほどになるが、この場所で出産して子育てをするのは、たとえ子供を持ちたいと願っていたとしても実際ほぼ無理だった。少なくともわたしが住む州は子育ての環境が非常に厳しい。まず産休・育休制度がしょぼい。うちの職場、正規雇用者は出産予定日の2週間前ほどまで勤務、産後3か月で復帰が基本である。それができないと非正規になるしかなく、その場合は医療保険を含む福利厚生が消える。復帰後は6週間のボンディング(親子の絆を深める)休暇が2回取得できることになっているのだが、これはただ単に雇用が保証されるだけで無給なので実は取る人が少ない。
学校に通うようになってもあんまり楽にはならない。うちの州ではかなり前から「鍵っ子」はいてはいけないことになっている。14歳までの子供だけで自宅にいることが禁じられているからだ。だから、15歳以上の兄姉が家にいない限り、下校後や長期休暇は祖父母などの社会資源に頼るか金を払って誰かにいてもらうことになる。さらに財政破綻状況で公立学校がすごいことになっているので、うちの職場は医師か看護師かを問わずみんな小学校から子女を私立に通わせている。そうなるとスクールバスがないので送迎をすることになる。
看護師が自宅でリモートワークをするのはほとんど不可能なので、女性が職場復帰するには生後3か月の乳児を置いていくことになる。この記事の中に、日本と比べて出生率が高い理由として親戚や友人によるインフォーマル(偶発的)なケアが期待できることを挙げているのだが、これは織り込み済みというか、これがないと両親のいずれかが自宅で勤務するか、仕事をあきらめて子育てに専念するか、あるいは誰かに金を払って代わってもらうかしかない。当然だけど料金が高いので、実際仕事をする意味があるのかみたいな話になる。
日本ではここ数世代で特殊出生率が著しく下がったが、米国でもそれは変わらない。女性が高等教育を受けて就労するようになれば、子供を持つことは「女性なら当たり前」ではなく人生の選択肢のひとつになる。
ただ、女性が子供を持つかどうかの社会的意味は日本と米国とでは必ずしも一致しない。日本国内の労働人口は子供の数に左右されるが、米国は移民が労働力となるから、少子化傾向にあるといっても異次元の少子化対策を打ち出す必要がない。
ところで米国の出産数を考える時に必ず言及されるのが婚外子の多さである。2021年で40.0%という公式発表があり、日本は2020年の内閣府のデータだと2.4%である。とはいえ、これにしても日本と同一には考えられない。おそらくもっとも大きな違いは法的な扱いだと思う。米国では結婚していない男女やその子女にも法的に同じ権利が保障されている。もともと配偶者控除なんてないし、確定申告時の控除も結婚していても事実婚でも同一である。うちみたいに子供のいない夫婦の方が子供のいる事実婚カップルよりも税制上ではよほど厳しい。
米国では時々「結婚なんて高所得者に許された贅沢」みたいな話を聞くけどその辺についてはよく理解ができない。子供が贅沢品だというならわかるんだけど、事実婚で子供が複数いて、結婚しないのは低所得だからというのはどういうことなのか。結婚手続きにかかる役所の手数料が払えないということなのか。米国の皆さんのことは移住して10年以上経ってもわからないことの方が多いし好きにしてくれていいんだけど。
文中のデータは、米国のものについてはCDC(米国疾病予防管理センター)、NCHS(米国国立衛生統計センター)が発表しているものを使用しています。日本のものは内閣府男女共同参画局と厚生労働省が発表しているものを使用しました。職場のものは院内規則によります。
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