逆差別
判決のニュースを読んでこの裁判について知った。
人種的理由による不当解雇と認めスタバに賠償命令
5年前、フィラデルフィアのスタバで何も注文せずに店内で座っていた男性が店側から退店を求められ、その後これを拒否したことで逮捕された。この男性が有色人種だったことから全米で論議を呼び、スタバのCEOはこれを誤った判断だったとして謝罪し、全米の直営スタバを一日閉鎖して従業員に人種差別についての教育を行ったという。
営利目的のコーヒーショップで注文の意図もなく場所を占有する輩に店員が店外に出てほしいと伝えることに、個人的には何の問題もないと思う。それが資本主義である。そこに人種問題をねじ込むのが間違っている。という、そんなことを昔書いたことがある。
そしてそんなスタバが白人に対する差別的解雇をしたという判決が出たのが今回の件である。アファーマティブアクションとは到底呼べない逆差別なのだが、実際この社会では白人であることが悪であるかのような印象を持つことが時々ある。
職場では毎年ポリコレについての講義を受けることが義務付けらている。職場でこんな人種や年齢による差別の事例が起きた場合に正しい対応を考えましょう、みたいなビデオやテキスト教材が延々続くのだが、こういう教材で人種や年齢で差別をする役柄はだいたい金髪の白人女性(中年)である。白人は社会で優遇され力を持った存在だという、それ自体が人種問題では禁断のステレオタイプじゃないかとわたしは思う。白人なら悪者扱いしてもセーフ、有色人種は常に被害者みたいな、昨今はそんな状況が時々見えることがある。実際のところ、わたし自身がアジア人として嫌な思いをする場合、その原因は黒人男性であることが多い。よくはわからないけれど、差別されることには敏感だけどすることはいいのかといつも思う。とりあえず身体的な接触がない限りは全力で関わらない、何か言われても聞こえなかったふりをするようにしている。犬に咬まれたくないなら近づいてはいけないのだ。
ところで人種問題についてのワークショップで「こんな差別的な発言を受けた・目撃したことについて発表しましょう」と言う場で、とある女性が発言した。
「私はボクサー犬(大型犬)を飼っています。うちの子は子犬の頃からやんちゃで、人を見るととびかかる癖があるんです。それでこの前散歩中に通りかかった男性にもじゃれてとびかかったことがあったんです。そしたらその人がなんて言ったと思います?『お宅の犬はしつけ教室に通わせたらいかがですか?』って。私がユダヤ人だからってそんな嫌味を言うんですよ、もう腹が立って」
わたしは女性がなぜ怒っているのか、それがどんな差別なのか意味がわからなかったのだが、話題が人種差別なのでどこで地雷を踏み抜くかわからずうかつにものが言えない。なので帰宅して王子にそのまま伝えたところ、「アチャー」みたいな顔をした。「その男性はおそらく『他人の迷惑になるし危ないからでかい犬はしつけろ、自分でできないならしつけ教室に連れて行け』とそのままの気持ちで言ったんだろう。でもユダヤ人は世間で倹約家というステレオタイプがあるから、その女性は『アンタはユダヤ人でケチだから金を出して犬をしつけ教室に通わせることもしない』と言われたと思って憤慨していたんだろう。そういう人は本当にいる。うちでやった人種差別のワークショップでもそんな話があった」。
怖い。でも気をつけようにも誰がユダヤ系かなんてわたしには見てもわからない。公衆に迷惑をかける飼い犬をしつけろと言ったら人種差別主義者だと告発されるとか、米国とはいったいどんな地雷原なのかと。
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