外国人の看護師国家試験合格率が目も当てられないほどひどいので、国がルビ振りやら英語併記やらの温情措置をとっていたがまともな数字が出ない。そんなわけで今度は「いっそ母国語で国試受けさせちゃったらいいんじゃね?」という案が出ている様子。
当初は滞在3年間で国試に受からなければ帰国する「外国人看護研修生」だったが、実際はどいつもこいつも国試に受からないので期限を過ぎた外国人も国試が不合格でも点数によっては日本にいていいことになり、その頃から呼び名が「外国人看護候補者」になんとなく変わっている。
国は臨床で医療を受ける患者の大多数を占める日本人のことはけっこうどうでもいいから、とりあえず外国人を臨床に出そうよ、という方針でいるらしい。そうでなかったら、こんな検討会自体を開こうと思わない。というか、ここって「母国の免許があるんだから無試験でいいんじゃないんですか」という検討会でなかっただけよかったと思うところなのか。
というわけで引用ふたつ。
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母語・英語での看護師国試は必要か―厚労省検討会が初会合 医療介護CBニュース 12月9日
経済連携協定(EPA)に基づいて来日した看護師候補者の国家試験の合格率を上げるため、厚生労働省は9日、「看護師国家試験における母国語・英語での試験とコミュニケーション能力試験の併用の適否に関する検討会」の初会合を開き、候補者の母国語や英語による試験実施の是非をめぐる議論を開始した。同検討会では、日本語のコミュニケーション能力を測る試験の併設についても議題とする。関係団体などから意見を聞くとともに、国民から意見を募り、その結果を踏まえて年度末に検討結果をまとめる方針。
この日の議論では、患者の安全や医療の質が保てないとして、日本語以外での試験実施に否定的な構成員が多かった。林正健二構成員(山梨県立大看護学部教授)は、看護師の業務として、看護記録をつけたり医師の指示を理解するためには、「話すだけではなく、読み書きができる能力が絶対に必要」と指摘した。また、熊谷雅美構成員(済世会横浜市東部病院副院長・看護部長)は、「管理する立場としては、試験合格後に就業すると、(日本語以外での試験実施は)看護の能力を担保するのに大変厳しいと思う」と述べた。
一方、加納繁照構成員(日本医療法人協会副会長)は、「(候補者を)受け入れている病院は、かなり負担を掛けて、頑張って教育している。進歩的な話にしていただきたい」と延べ、合格率を上げるための議論の深化を呼び掛けた。
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日本看護連盟ニュース 2011年12月13日
外国人看護師国家試験、母国語・英語試験導入に反対意見相次ぐ
12月9日、厚生労働省は、経済連携協定(EPA)で来日している外国人看護師候補者の国家試験の実施方法について議論する「第1回看護師国家試験における母国語・英語での試験とコミュニケーション能力試験の併用の適否に関する検討会」(座長=中山洋子・福島県立医科大学看護学部教授)を開催した。
平成20年に日本がフィリピン・インドネシアと締結したEPAでは、経済連携のため両国から特例的に看護師候補生を受け入れると定められている。過去3年間で両国合わせて573名が来日しているが、看護師として就労するために必要な国家試験の合格者数は過去3年間でたった19名。合格率が著しく低いことが問題となっている。外国人看護師候補者が受ける試験は日本人が受けるものと同じで、語学やコミュニケーション能力等が最大の障壁だった。そこで今年の試験からは、難しい漢字へのふりがな付記や疾病名に英語を併記するといった対策が図られ、合格者が前年の3名から16名へ増加した。今回の検討会では、更なる合格率向上のため、試験を日本語ではなく、母国語または英語で回答できるようにする意見が上がっている。
しかし、構成員からは厳しい声が相次いだ。藤川謙二構成員(日本医師会常任理事)は「外国人看護師を受け入れるために日本の医療の質を落とすのか」と述べ、花井圭子構成員(日本労働組合総連合会総合政策局長)は「日本語能力不足により、薬や医療機器名を間違えたり、連絡事項に齟齬が起きないか」と患者の立場に立った不安を表した。また、小川忍構成員(日本看護協会常任理事)は「患者の安全を第一に考えるべき。日本人でさえ医療事故に対して不安を抱えている。外国人看護師を医療事故の加害者にさせないためにも慎重になるべき」と語った。
林正健二構成員(山梨県立大学看護学部教授)は、EPAによって来日した看護師候補者が特例として日本語能力試験を免除されている問題を指摘。「コミュニケーションは話すだけでなく、読み、書きも重要。十分な日本語能力がなければ看護記録も作成できない。記録がもし間違うことがあれば、診療報酬の算定に支障をきたす」と注意を促した。
実際に現場でインドネシア人を受け入れている熊谷雅美構成員(済世会横浜市東部病院副院長・看護部長)からも「臨床の立場でいうと、看護師試験を受けた後で日本で就業することを前提としているならば、日本語能力なくして、看護の能力は担保できない。(日本語による)国家試験が通った後に働くことを前提にするべき」という意見が出た。
この検討会は以降3回開催され、来年3月にとりまとめが行われる予定。
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この件に関しては国民のご意見を募集する予定らしい。今のところ案のみで、実際のパブリックコメントや国民のご意見募集のページに掲示はない。
ただ、国試の日本語はもうちょっと砕いてもいいかもしれないとは思う。お役人さんが自分たちの慣れた「確実な日本語」で作ってくれるので、たまに読みづらくてわかりづらいところがある。ネイティブだから「きっとこういうことだよな」って見当つけて回答できるけど、外国人の皆さんにはしんどいかも。でもだからって母国語で受けさせるのはどう考えてもおかしいよね。
ちなみに、日本看護協会はこの会合について正式な見解を出していないが、文中にあるように常任理事がこの会合の構成員で会合の中でがっつり反対している。また日本看護協会が今年3月に第100回看護師国家試験での外国人看護師候補者の合否結果を受けてマスコミ向けに出した見解の中で、外国人向けのルビ振りや英語併記についてかなり厳しい批判をしている。以下に一部引用する。
「患者の安全を守って日本の医療現場で働くためには、医療従事者との共通言語である専門用語の理解は最低限必要な能力です。専門用語の理解不足から外国人看護師を医療事故の加害者にしないためにも、ご理解をいただければ幸いです。
また、外国人看護師候補者の看護師国家試験の合格率が低いのは、インドネシアおよびフィリピン両国と合意したEPAの枠組みにおいて、日本語能力を問わず受け入れていることが原因です。外国人看護師を受け入れている諸外国においては、医療現場で働く上で必要な言語能力を審査し、その上で受け入れています。現状では日本語での看護師国家試験が言語能力確認の機会となっており、その意義を改めて認識する必要があります。
今後、国家試験合格率を上げるためだけではなく、来日された外国人看護師候補者の皆様の人生がEPAに翻弄されず、日本での経験がインドネシアおよびフィリピン両国の医療、看護の発展につながるようにするために、来日する前の段階で、あらかじめ日本語能力を審査することを検討すべきと考えます。」
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