日記・コラム・つぶやき

滑稽な対策

某ポータルサイトに転載されたとあるブログの記事を見た。

この人のことはまるで知らないけれど、ある分野を専門にする人らしい。それによると、どうやらこの書き手のお友達らしいアメリカ人ビジネスマンが出張で日本に来て、このときの成田の新型インフルエンザの水際対策がとても滑稽に感じたということだ。機内でマスクを配ったり、防護服を着て機内をチェックしたり、赤外線カメラで発熱の有無を確認したりするさまがいかに大仰で迷惑でおかしかったかを爆笑しながら話したというのがその趣旨。

アメリカはかなりの数のいい大人が「ヒトの血液が体内にあるときは青くて、空気に触れると赤くなる」なんてことを真剣に信じているような国だから(皮膚から透けて見える血管が青いからだってさ。じゃあなんで海の水は青く見えるんだよ)このアメリカ人には好きに言わせておいたらいい。

ただそれをあたかも「そうでごぜえますですねアメリカ人様」と言わんばかりにブログに載せるこの日本人がいやらしい。なぜ自分の国のすることよりも、実は潜伏期間中あるいは不顕性感染まっただなかでウイルスをがっつり持ち込んでいるかもしれないアメリカ人の言うことに賛同しちまうのか。

新型インフルエンザが弱毒性(現時点で)で、罹患しても何らかの基礎疾患がなければ重症化せずほとんどのケースで治癒が見込めるとわかったのは最近のことで、それまでは伝播力が強いことしか知られていない未知のウイルスだった。メキシコで、次いでアメリカで死者が出て、人口密度の高い日本ではどうなるのか、どれほどの死者が出るのかと恐れてできる限りのことをしようとした、その結果が(いやまあぬるかったけどさ)この対策だった。

わしらは入国してくる、あるいは帰国してくるみなさんの利益を思って検疫をしていたわけじゃない、何を思ったかわざわざこんな時期に渡航してくれてウイルスを持ち込みかねない対象を、身銭を切って、あるいは連休返上でチェックしてなんとか食い止めようとしていただけだ。対策そのものは不十分だったのかもしれないけれど、その姿勢は間違っていないと思う。

大切な人に未知のウイルスに感染させたくないと思うこと、そのために対策をすることは、少なくとも日本人にはごく当たり前のことで、結果的にそれがすべて杞憂であったならそれは何よりすばらしいことだと思う。それを理解しようとしない外国人に大袈裟だの滑稽だのと言われて言い返しもせずにうきうきとブログに書く、それこそが恥ずかしい。

これまで東京で新型インフルエンザの二次感染が報告されていないのはおそらくただ単に現在関東でインフルエンザスクリーニングおよびPCR採血対象者が制限されているからだと思う。どうやら残念ながらあんまり湿度は関係ないようだから、これから感染者はいくらでも出てくる。わしら医療者はそれでもまだ情報の少ないこのウイルスに自分も感染するかもしれないけれどマスクして手洗いしてがんばるわけだ。みなさんがわたしがマスクをして勤務する姿を滑稽だと思うとしても黙っていてほしい。そんなあなたやあなたの大切な誰かもわしらは守ろうと思って仕事をしている。


いやでもマジで、白癬とかヘルペスとか結核とか新型インフルエンザとか勤務でもらっちゃいそうで日々ビビってんです。わたしがもらっちゃったら家族にもうつしかねないし、もうね、こういうことってだれに笑われようが防御してしすぎるってこと、ほんとにないんですって。

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